薪ストーブクロニクル

食とエネルギーの自給を目指して

薪ストーブ中毒者の中毒症状・総集編

薪ストーブにどっぷりはまる、薪ストーブ中毒のみなさんの症状をレベル1から5まで段階を経て紹介していった企画の総集編だ。

 

薪ストーブ中毒者はいくつかの段階を経て、症状が悪化していくことが最近の調査、研究により分かってきている。

以下にその症例を挙げてみる。

 

中毒レベル1

「薪ストーブが気になり出す」

 まず最初に起こること。薪ストーブや煙突が突然目に入るようになること。

薪ストーブについて一度でも調べたりしたことがある人なら、多くの人が経験することだと思うが、とにかく薪ストーブを見かけると、おっ、と反応してしまうようになる。火を焚くことが漠然と素敵なものに見えはじめ、次第に薪ストーブのある暮らしに憧れを抱くようになる。一年に必要な薪の量も、乾いていない広葉樹の容赦ない重さも、乾燥薪の怯むような価格も、煙突の意外すぎる重要性も、何も知らない。なんとなく良さそう!それだけ。

そして、ここが中毒レベル1と2を隔てる大きな違い、見分けるポイントになるのだが、レベル1の人間にとって「薪ストーブ」はあくまで「薪ストーブ」でしかない。アンコールでもディファイアントでもなく、ヨツールのF400でも500でもない。ダッチウエストのフェデラルコンベクションヒーターでもなければモルソーでもなく、ネスターマーティンS43でもない。ドブレヴィンテージ50でもない。ましてや、岡本のアグニやモキという国産薪ストーブの存在なんて知りもしない。ただ、薪ストーブを薪ストーブとして認識しているのみだ。この段階で中毒と呼ぶのは少し酷である。あるのは漠然とした憧れだけだ。

 

なぜ、このような初期症状が出るか、という原因については、いくつか考えられるが、やはり一番多いのは、「体験型」ではないだろうか?

「体験型」とは、寒い季節に知り合いの家に遊びに行った際に薪ストーブを知り、じっくりと炎を眺めたりその並外れた温かさを体感して、自分の家にも欲しくなる、という実に直接的でシンプルなものだ。

また、雑誌などの特集を見て憧れる「雑誌憧れ型」もある一定数存在するはずだ。

そしてまれなケースではあるが「エコ意識高い型」というものもある。石油文明に絶望し、自然エネルギーやオフグリッドな暮らしを目指す暮らしの中で必然的に暖房器具に薪ストーブをチョイスするというものだ。もう原発や石油に依存した暮らしは崩壊の兆しをありありと見せているので、当然の選択かもしれない。ただ、最初のきっかけなど、実はあまり重要ではない。大切なのは一歩を踏み出すことだ。次を見てみよう。

 

中毒レベル2

「機種や構造に詳しくなる」

 触媒式とクリーンバーン方式という燃焼方式の違いを知り、実は形も大きさも全然違うということが分かってくるのが、このレベル2である。

バーモントキャスティングが作っているアンコールやディファイアントについているウォーミングシェルフがいかにユニークなものなのか。

ヨツールのガラスについている格子模様は、ちょっと炎が見にくいけど、輻射熱を得るために重要なものである。ただの飾りではない。
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触媒(コンバスター)を交換するメンテナンス費用は思いのほか高いぞ。しかし燃費はいいらしい。

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↑触媒色々

 

触媒とクリーンバーンを組み合わせたフレックスバーン方式は、無敵のように思えるが、実は結構煙突から煙が出てしまうらしい。

それなら、やっぱりクリーンバーン方式の方がずっと有利に見えるけど、実は空気をしぼってチョロ焚きすると2次燃焼が起きないらしい。つまり低出力ではうまく焚けないということか?

煙突は最低4メートルあった方が良くて、なるべくまっすぐがいいらしい。断熱二重煙突はマストらしい。煙は冷やさない方がいいらしい。

大きければいいというものでもないらしい。出力が大きくて部屋が暑くなりすぎても、簡単には温度を下げられない。メーカーに大きな差はなくて、部屋にあったサイズを選ぶのがめっちゃ大事らしい。

エトセトラ、エトセトラ。

 

とにかくカタログやネットに溢れかえる情報を調べまくって、知識だけがやたらとついていく。間違った情報や、条件付きの情報も見分けがつかずにどんどん吸収してしまう。とにかく情報に飢えて、調べまくる。

これが中毒レベル2だ。下手をすると薪ストーブもないのに、在り合わせの道具を使って薪を割り出す人もいるかもしれない。そんな人たちもこのレベル2に含まれる。

 

レベル1の間は、漠然とした憧れが続くので、いわば潜伏期間のようなものである。具体的に話が前に進まないまま何年も、下手をすると10年以上ぼんやり憧れているだけ、というケースもまれに存在する。

しかし、このレベル2まで来てしまうと、症状が一気に進行していくことが多い。既存の家に設置するのか、新築か、リフォームに合わせてなのか、それは人それぞれだが、ささいなきっかけで症状が進み、気がつけば薪ストーブ販売店などの門をくぐっている、なんてことも。自覚症状もはっきり表れ出し、導入に向けて進みだしたら、レベル3はもう手の届くところだ。

 

 

中毒レベル3

「薪作り道具にこだわり出す」

 さて、ここからにわかに雲行きが怪しくなってくる。このレベル3にまで達すると、すでに薪ストーブを導入しているか、もしくは導入が決定している人になってくる。つまり後には引けない状態だ。調べに調べて導入する薪ストーブの機種は決定している、もしくはすでに導入しているが、他のストーブもやたら気になってくる。う、浮気はいかんぞ、と思いながら、薪ストーブを設置しているお宅や店などでの過剰反応が続く。

そして薪集めも後には引けない状態だ。原木を購入するにせよ、無料でもらってくるにせよ、玉切りや薪割りは、薪ストーバーの必須の活動であり、当然の義務として課せられているということを嫌でも認識することになる。

一年で2トンなのか8トンなのか、必要な薪は地域やストーブなどで大きく異なるが、いままでの日常では登場しなかったはずの「トン」という単位にひるみつつ、薪作りが始まる。

そしてすぐに気付く。世の中には薪作りのための多種多様なアイテムが存在していることに。斧やチェーンソーだけでなく、薪割り楔や焚き付け作りのためのハチェットと呼ばれる手斧や「キンドリングクラッカー」なるもの、そして木を移動するための「トビ」まで、実にたくさんのアイテムが、己の物欲を刺激してくる。

斧だって、重いものと軽いもの、そして節のある強力な玉を割るための「フィスカースIsoCoreハンマー斧」なんていうアイテムまで、可能なら置いておきたい!という気持ちがどんどん膨らむ。

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 ↑Fiskars IsoCoreハンマー斧

 

カタログを見続けるのは危険だ。特にお風呂にまで持っていって、紙がしわしわになるまで見続けるのは、やめた方がいいかもしれない。自分の体験談だ(笑)。

しかし、どうしてもほしくなることもあるだろう。そんなとき、インターネット販売のなかった昔は大変だっただろうなぁと思うが、今は簡単だ。

フィスカースの斧を中心に様々なアイテムを揃えている

 Hearth and Home 暖炉家

や、ファイヤーサイドさんの代理店でもある

 薪ストーブアクセサリーとメンテナンス用品の販売|ありがた屋

などは、Amazonで購入するより価格も良心的で、非常に助かる。

 

当然、時間さえあれば薪割りや木材運び、薪置き場の整理などにいそしんでいる。薪を割っていないときは、薪置き場の様子を頭に思い浮かべたりする。まるで少年時代の秘密基地を夢想する子供のように‥。

 

ここまでくればあなたも立派な薪ストーブ中毒者だ。僕も現在このレベル3に属しているという自己分析をしている。

 

なお、薪は作らないよ、全部購入してるからね、という貴方。おめでとうございます。貴方は中毒レベル3には達していません。薪ストーブ中毒という病におかされなかったことを喜びつつ、平和に薪ストーブを使い続けてください。

 

ここまでが、自分が実際に足を踏み入れた経験に基づく中毒症状の紹介だ。薪ストーブや「火のある暮らし」への漠然とした憧れから始まる 薪ストーブ中毒がどのような症状を伴って進行していくかを見てきた。

ここからは、その薪ストーブ中毒が重篤化していく過程を見ていこう。

なお、僕自身は現在ギリギリレベル3に踏みとどまっているという自己分析をしているので(笑)、ここから先は様々な先輩諸氏の体験談やブログを参考に、想像で書かせていただくことを始めにお断りしておきたい。

 

では、中毒レベル4からはじめよう。

 

中毒レベル4

「あとに引けない大型機材を購入」

 薪ストーブは家に導入され、すでに何シーズンか過ごしているかもしれない。もしくは導入されたばかり、ビギナーズハイの状態で一気に症状が進んでここまでたどり着いてしまった人もいることだろう。何種類かの薪割り斧や焚き付けが作れる手斧、過不足のない排気量のチェーンソー、そして薪ストーブを焚くのに必要な一通りのアイテムを揃え、順風満帆な薪ストーブライフを送っている。‥はずだ。これで充分。これ以上、症状が悪化することなど、考えられない。

 

しかし、しかしだ。薪ストーブ中毒の本当恐ろしさはここから始まると言っても過言ではないのだ。

斧で薪割りは楽しい。チェーンソーも充分玉切りに適した大きさだ。そして、原木の運搬には自家用車の座席を倒したり、軽トラを借りたりしてうまくやりくりできている。

それなのに、なぜか欲しくなる、①薪割り機、②大型チェーンソー、そして③軽トラ。

 

①小型の電動薪割り機から始まり、最後はエンジン式の巨大な薪割り機「ティンバーウルフ」みたいなものにまで触手が伸びていく。なんとこの薪割り機、ホンダのエンジンまで搭載して、精密工学的技術の粋を集約した、究極の薪割り機だそうだ。
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↑薪ストーバー垂涎?のティンバーウルフ社製薪割り機

 

②スチールやハスクバーナの素晴らしいチェーンソーを所有しているにも関わらず、排気量50cc、バーサイズ45㎝のプロ向けチェーンソーが欲しくなる。そんな高性能のチェーンソーで一体何を切るというのかわからないが、林業従事者でさえ羨ましがる、そんなチェーンソーが欲しくなって、買ってしまうのである。だって、いつどこで巨木を切り倒してくれと言われないとも限らないじゃないか(笑)。

 

③そして、最後は原木や玉、薪の運搬専用の軽トラに手を出してしまう。多くの場合、自家用車とは別にもう1台軽トラを取得することが多く、完全に薪ストーブのための買い物である。ここまでくると、いかに薪購入がランニングコストが高いとはいえ、コストに見合う成果をあげるにはかなりの努力と持続力が必要となってくる。

 

レベル3と4を隔てる境目は、ここまで揃えてしまうと「ちょっとした趣味だったんです」ということでさらっと終われない、ということだ。巨大な薪割り機や使わない軽トラをガレージに置いておきながら、石油ストーブで部屋を温めていた日には、気まずさが家庭全体を覆い尽くすこと必至だからである。

 

とはいえ、ほとんどの薪ストーバーはこのレベル4にとどまって幸せに薪ストーブのある暮らしを続けることになるだろう。ここまでくると基本的には、毎年薪を作って冬に焚く、その繰り返しのなかで、薪ストーブがだんだん日常に溶け込んでいくのだから。コストはかかるだろう。たまには「そんな高いものを買って」と奥さんに嫌みのひとつも言われるかもしれない。しかし、薪ストーブの暖かさはいつだって本物だ。ファイヤーサイドのポールキャスナー氏も、「薪ストーブの火にはイミテーションにはない本物の喜びがあります」と書いているじゃないか。だから、何も間違っちゃいない。レベル3で止まっても、レベル4まで来てしまっても、どちらにせよハッピーなのだ。

そう、この中毒レベル4が薪ストーブライフの最終到達点のはず‥。

 

なのだか、もちろんまだ続きがある。 

更なる高みを目指す孤高の薪ストーバーたちが向かう山の頂、それが中毒レベル5だ。

 

中毒レベル5

「薪ストーブをなりわいとする」

いかに高価な薪ストーブグッズや薪割りグッズを揃えたとしても、ほとんどの薪ストーブユーザーにとって、薪ストーブは趣味の世界である。普段はネクタイをしめて会社で別の仕事をする勤め人や、自営業であっても薪ストーブとは関係ないそれまでの仕事を続けるのが当たり前だろう。

どのような世界にも趣味で始めたものの、好きが高じて、その趣味を仕事にしてしまう強者がいるものだが、薪ストーブの世界でも例外ではない。薪ストーブ中毒の最終到達点、レベル5はこの薪ストーブを仕事にしてしまった人々のことを指すのだ。勝手にそんな風に決めてしまって本当にごめんなさい‥。

そして、普段ブログを閲覧させてもらっている薪ストーブの先輩たちの多くが、このレベル5に属している。

彼らの語る言葉には、さりげない表現の中にも、職業者としてのプライドや経験に裏打ちされた重みのようなものを感じる。

軽々しく、どのストーブはよくてどのストーブは悪い、とか、想像できっとこうに違いない、というような無責任な事を書かないように注意を払っていることがよくわかる。

経験でも実績でもかなわないが、このブログではむしろ薪ストーブのファンタジーあふれる側面、プロが無責任に語れない妄想の世界を切り開いていきたいと考えている。

そしてその先に、薪ストーブにとどまらない、食とエネルギーを自給して暮らす、次世代の生活モデルを提示できれば、と壮大な夢は膨らむばかりである。

 

さて、ここまでレベル1「漠然とした憧れ」からレベル5「薪ストーブをなりわいとする」まで、実に多くの喜びと葛藤が入り乱れた薪ストーブを巡る悲喜こもごもを見てきた。あなたは一体今どのレベルに達しているだろうか。

薪ストーブが気になるレベル?自分の薪棚に見とれて、目が離せなくなるレベル?それとも脱サラして薪ストーブ屋さんを考えるレベルだろうか?