薪ストーブクロニクル

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薪ストーブシルル紀④ 理想の薪を求めて~クマシデ編

理想の薪とはなんだろう。

ほんのひととき焚き火をするだけなら、すぐに火がついて扱いやすい針葉樹こそが理想だろう。

しかし夜を徹しての長い焚き火なら、そこにはもう少し火持ちのよい雑木も欲しいところだろう。

 

薪ストーブとなるとまた話は変わってくる。

まず、一晩二晩のキャンプとは必要な薪の量が違いすぎる。

キャンプなら一束の薪があればそこそこ安心だが、薪ストーブ生活の一冬に必要な薪の量となると、桁が違う。

地域やストーブの性能にかなり左右されるとはいえ、4トンや5トンは焚く、というのも珍しいことではないだろう。

 

その時、薪集めや薪作りまで一貫して行っている薪ストーブユーザーにとって、二つの事が重要になってくる。

①入手のしやすさと、②薪の割りやすさだ。

 

①に関しては、いくら最高級の火持ちを誇る樹種だと言われても、そこらに生えていない珍しい木だったら、そもそも量が集まらない。

杉やヒノキ、コナラやサクラ、クリなど、良く耳にする薪の樹種は、何よりもそこら中に生えていて手に入りやすいからこそ、薪の樹種として名前が通っているのだ。

いくら優秀でも、ツクバネガシやウバメガシなど、一部地域を除いてほとんど目にする機会もない珍しい樹種は、レギュラーの薪としては適していない。

 

②の割りやすさもかなり重要だ。

わりあいどこででも手に入りやすい樹種の中で、持って帰るのをためらう木の代表格といえば、ケヤキクスノキだろうか。

どちらもえげつないほど割りにくく、知らずに大量に持って帰っていざ割ろうとして、全然割れなくてえらい目にあったりする。

 

その意味でもやはり、コナラやクリ、サクラなどは手に入りやすい上に割りやすいという、極めて合理的な魅力があるのだ。

 

そして③火持ちのよさ、という大事なポイントもある。

いくら杉が割りやすくて無尽蔵に手に入るとしても、あっという間に燃え尽きるので、薪棚がいくつあっても足りない。

コナラやクヌギのように、そして欲を言えばシラカシやアラカシのように最高級の火持ちを誇っていれば、薪棚から薪が減っていくスピードは目に見えて遅くなる。

追加薪の頻度も下がって、運んだり薪をくべたりする全体的な労力が少なくなるのだ。

まあ、これは当たり前と言えば当たり前だ。

 

そこに、意外と盲点とも言える、理想の薪の条件がもう一つ加えたい。

 

④室内が汚れない

 

というのがそれだ。

 

乾燥させた薪を室内に持ち込むと、どうしてもポロポロと樹皮が剥がれたりして、室内を汚すものだ。

 

多少のことは気にしなけらばいいとは言え、一冬続くと、やはり皮が剥がれにくくて、汚れない薪の方が使いやすいのは間違いない。

その点ではコナラやクヌギも乾燥したら皮がベリッと剥がれたり、一部が剥離してポロポロこぼれることは日常的に起きる。

コナラもクヌギももちろん優秀な薪ではあるが、理想を突き詰めるともう少しなんとかならんもんかと、特にきれい好きの薪ストーブユーザーから聞こえてきたりするのだ。

 

で、

①入手しやすく、②割りやすく、③火持ちが良くて、④室内が汚れない。

 

そんな理想の薪があるんかい、と言われたら、現実的ではこの薪をオススメしておこう。


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シデだ。

 

シデには主に3種類ある。

アカシデ、イヌシデ、クマシデ。

 

その3種類の中でも、こいつはクマシデという種類のものだ。

 

樹種を見分けるのはやや難しいらしくて、パッと見た感じはどれも「うん、シデだな」としか分からない。

しかし、まあ、細かいことはあまり気にしないでおこう(笑)。

クマシデは他のシデ類より葉脈がめっちゃ細かいので、コツをつかめば簡単に見分けられるはず。

 

今回見つけてきたこのクマシデが理想の薪に近いのではないか、というのが今回の主題だ。

 

では早速、理想の薪の条件に適合しているか、一つずつ見ていこう。

 

①入手のしやすさ

普通の雑木林にコナラなんかに混じってシデの林が形成されているのをよく見かけた。

群生しやすいようなので、シデ類はごく普通に生えている樹種だと言える。つまり、集める気になれば、手に入れやすいだろう。

 

②割りやすさ

見た目はいかにも割りにくそうな複雑な起伏に富んだ樹皮だ。杉やクヌギのようにまっすぐの樹皮ではなく、繊維がうねっているのがパッと見て分かる。だから長らくシデ類は敬遠していたのだが、最近薪ストーブ仲間から「シデは割りやすいらしい」という情報を得たので、持って帰って割ってみた。

 

早速実際に割ってみる。
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こいつは長い方の直径が40センチオーバーのかなり極太の玉だ。薪割り台からはみ出さんばかりのでかさ。

割りにくい樹種なら、手も足も出ないサイズだが、フィスカースを振り下ろしてみると、
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まあ、割れるね。

 

このサイズで割れるということは、割りやすさは問題にならない。むしろ割りやすいと言える。

 

③火持ちの良さはどうか。

まだ焚いていないのでこれは断言はできないが、シデ類の比重を挙げておくと、

イヌシデ0.69

アカシデ0.72~0.80

クマシデ0.75

という感じだ。

コナラの比重が0.76なので、クマシデに関してはコナラと遜色のない薪と言える。

そもそもシデ類は全般的に薪炭材として昔から利用されてきた歴史があるようで、特にクマシデはカタシデという別名を持ち、その名の通り硬い。だいたい硬い材は薪としての火持ちも優秀であるはずだ。ここはまた数年後に実際に焚いて試してみるまで断言は控えるけど。

 

④室内が汚れない

シデの最大の個性はここにある。皮がしっかり幹と一体化していて、剥がれないのだ。

割って薪にしてもポロポロと室内を汚すことなく積み上げておけるので、最後の最後までストレスが少ない薪だと言える。

まあ、ここも実際に試してみて、その実態を報告する日が来るのが楽しみではあるわけだが。

 

ということで、理想の薪を求めて色々な樹種を持って帰っているが、こいつはかなり有力だ。

 

クマシデ。

 

覚えておいて損はないはず。