薪ストーブクロニクル

食とエネルギーの自給を目指して

僕はきこりになった 第3話『入社初日の出来事①』

いよいよ林業の世界に足を踏み入れた。

 

その記念すべき第1日目に起きたことをおそらく一生わすれないだろう。

 

 

2018年4月1日。

 

その日は日曜日だった。

 

日曜日も基本的には誰か出勤して作業をしているらしく、その日が僕の初日になった。

とはいえ、日曜日に休みたい従業員も多いみたいで、その日出勤したのは全体の半分ほどだった。

 

僕は7時半頃に事務所に行くことになっていた。少し早めに着いて、とはいえ何をしていいかも分からずマゴマゴしていると、親方が母屋の玄関から出てきた。

 

手には緑色の箱と赤い筒のようなもの、そしてヘルメットを持っていた。

 

「はい、これ」

と言って、それらのものを手渡された。

 

どうやら、支給されるものらしい。

 

緑色の箱には靴底にスパイクのついた地下足袋、赤い筒には、のこぎりと鉈(なた)がささっていた。

それと、ヘルメット。

 

どうやら、服装は何も用意しなくても大丈夫、というのは、これらの支給が前提にあったようだ。

 

早速地下足袋をはいてみる。

このところ人生初のことが多いが、地下足袋を履くのも人生初だ。

 

アルミ製のハゼと呼ばれるもので足首から上をプチプチ固定するのだが、慣れていないのでものすごく時間がかかる。f:id:akagestoves:20230407115739j:image

しかも靴底にスパイクがついていて、アスファルトの上は歩きにくいことこの上ない。

 

ちなみに、このスパイク地下足袋でコンビニに入ったら、スケートリンクに入ったかのようにツルツル滑って、めっちゃ危険だった。

 

しかし、このスパイク地下足袋、斜面に立ち入ると、向かうところ敵なしの実力を発揮する。

というか、急斜面で丸1日作業するなら、この地下足袋以外ではちょっと無理なんじゃないかというくらい、歩きやすかった。

前回紹介したチェーンソーブーツで作業していたら、1日で仕事を辞めていたかもしれない(笑)。

 

さて、地下足袋を履いたら、腰のベルトに日本刀のようにのこぎりと鉈を差して、ヘルメットをかぶる。

 

ヘルメットは当然だとして、この「のこぎりと鉈」というのが当分の間、僕に許された武器の全てということになるのだ。

チェーンソーはそもそも資格がないと仕事では使えない。刈り払い機(草刈り機のこと)も同様だ。

山の中では何が行く手を阻むか分からない。

のこぎりと鉈があれば意外となんとかなるものだ。

 

少し前に入社した先輩は、しばらくの間丸腰で作業をしていたので、数日後にのこぎりと鉈を支給されたとき、ドラクエで初めて「銅のつるぎ」を装備した時のような気持ちになったそうだ(笑)。

 

さて、とりあえず服装はこれでいいらしい。

 

そうこうしていると、背後から声をかけられた。

 

「あれぇ、君が今日から入ってきた新人くんか?」

 

一人の中年男がくわえタバコに藪にらみでこちらを見ている。

年の頃は50代を過ぎているだろう。髪の毛はほぼ白髪で、伸びた無精髭にも白いものが混じっていた。

どう考えても、これから先輩になるお方のようだ。

 

うーん、どうしよう。

絶対に苦手なタイプだ…。

 

ふてぶてしい雰囲気からすると、この道何十年という大ベテランかと思われる。

 

これが、僕とミスターTとの出会いだった。

 

<つづく>

 

 

おまけ

 

今週の一枚

 

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タケノコの季節だ。

天気のいい日に、掘りに行って、庭でアク抜きをした。